クリーン環境用ステンレス鋼ボルト
潤滑剤を使用せずに焼付き・かじりを防止
1.はじめに
当社はステンレス鋼の焼付固着防止の問題を解決することにより、フランジ接合用にステンレス鋼製ボルト・ナット開発した草分け的存在であり、常に顧客の ニーズを基に研究開発を行ってきた。主な製品例は「SDCボルト」で知られる水道配管用のステンレス鋼製ボルト・ナットであり、「SDCボルト」はボル ト・ナット締付け時の焼付き防止効果ばかりでなく、締付け管理の際のトルク係数を安定させることによって適正な締付け結果を得られることが顧客のニーズに 適合し、1981年発売開始から27年経過した現在でも、全国の水道事業所などで使用されている。
その後、SDCボルトシリーズとして異種金属管接合時の電食(電池作用腐食)を防止する「SDC防食ボルト」、1000Vの電圧を絶縁する「SDC電流 絶縁ボルト」などがシリーズ化され、全国の水道事業所だけに留まらずプラントメーカーや各種機器でも使用されるに至っている。
1984年、米国のシアトルに現地法人SDC.US.CORPを立ち上げ営業活動を行った際に、世界最大の航空機メーカーであるボーイング社から、チタ ンの表面硬化処理技術の開発を求められた。この技術ニーズを基に技術開発を重ね、チタンへの表面処理の技術を開発、特許も取得した。
「SDCプラズマ表面硬化処理」はその後チタン製ボルト・ナットに適応され「SDCチタンボルト」、「SDCチタン合金ボルト」が生まれた。また、開発 した表面処理技術は「SDCプラズマ表面硬化処理技術」としてチタン部品の摺動箇所での磨耗防止対策処理として、航空宇宙部品や各種産業用ポンプや撹拌機 の磨耗防止や腕時計の外装部品やゴルフクラブの傷防止にも採用され、あらゆる分野にて威力を発揮している。
「SDCプラズマ表面硬化処理技術」はチタン材だけではなく、ステンレス鋼への表面硬化処理も可能にし、ステンレス鋼が粒界腐食により鋭敏化しない温度域で表面硬化処理ができる低温プラズマ表面硬化技術を確立した。
その後、ステンレス鋼製ボルトに「SDCプラズマ表面硬化処理」を施した「SDCクリーンボルト」(写真1)を開発し、無潤滑で乾燥式の焼付き防止ねじ として普及し始めている。本稿では、「SDCクリーンボルト」の特長や機械的性質など、プラズマ表面硬化処理技術の内容と共に紹介する。

(写真1)
2.「SDCクリーンボルト」概要
配管ジョイントに用いられている軟鋼及び鋳鉄製のボルト・ナットは被締結物が健全であるにも関わらず、ボルトが異常腐食(電食)を起こすことが非常に問 題視されていた。そこで耐久性、耐食性に優れたステンレス鋼製への代替が着目され、現在ではめざましい普及をみるに至った。しかし、従来のステンレス鋼製 ボルト・ナットは締付けた時に焼付固着を起こすという問題が発生する。ステンレス鋼製ボルト・ナットの焼付く原因は主に下記3点の要因が考えられる。
�.好謄鵐譽更歙修亘犹し舷瑤�大きく、従ってねじのかみ合い面での摺動抵抗が大きくなってしまう。
�▲好謄鵐譽更櫃蓮�熱伝導率が小さい(鋼の1/3)ためにねじのかみ合い面で発生した熱が発散されにくく、局部的に高温になり易い。
��ステンレス鋼は、熱膨張係数が大きい(普通鋼の約1.5倍)
これら3つの要因が相乗効果をきたし、ねじ部の膨張が大きくなり焼付きが起きやすくなる。
以上のような欠点を克服する防止策として、潤滑剤・めっきを使用せず、ステンレス鋼製ボルト・ナットの焼付きを防止するねじとして、「SDCプラズマ表面硬化処理」の適用により「SDCクリーンボルト」を開発した。
特に不純物を極力嫌う半導体製造装置用真空装置内部やクリーンルーム内、食品・飲料関係、化粧品・医療関係の配管部では、ボルト・ナットの締付け時に潤 滑剤やめっき・コーティングなどの焼付防止対策は使用できない。理由として、潤滑剤に関してはクリーンルーム内でコンタミとなって製品に悪影響を与え、 めっき・コーティングに至っては、締付け時のねじ部に高トルクがかかることからめっきが剥がれ落ち、潤滑剤を使用した時と同じ問題が起こる。また、温度が 上昇すると潤滑剤の蒸発、めっきの変質が起きてしまう。そのため、潤滑剤を使用しない焼付き防止の「SDCクリーンボルト」が必要不可欠である。
3.SDCプラズマ表面硬化処理
金属の表面硬化処理には、蒸着(PVD,CVD等)、塗装やめっきなど異種材料を表面にコーティングする処理と、表面から内部へ炭素や窒素原子を浸入拡 散させる浸透拡散処理がある。「SDCプラズマ表面硬化処理」は浸透拡散処理の一種で、真空中でプラズマを利用して硬化層を傾斜的に形成する表面を改質処 理する。(硬度データは図1に示す)

(第1図)
そのため、めっき・コーティングと異なり、剥離してコンタミが発生することが全くない。この処理技術はチタン・チタン合金及びステンレス鋼の耐食性を劣 化させずに硬化処理することが可能で、薬品・食品・飲料プラント、半導体製造装置、クリーンルーム内部など幅広く適用することができる。
また、世界15ヶ国が共同で開発を進めている国際宇宙ステーション(ISS)の日本担当実験モジュール「きぼう」が日本時間6月1日に米スペースシャト ル「ディスカバリー」によって打上げられたが、この「きぼう」内部にも当社の技術が搭載されている。「きぼう」内には温度調節をするために冷却水を流す配 管が必要であり、その配管内部の圧力を一定に保つためのアキュムレーター(蓄圧器)が取り付けられる。その組み立ての際にねじ部の締付けを繰り返すことに より焼付き現象が発生するが、それを防ぐ目的として「SDCプラズマ表面硬化処理」が採用され、宇宙開発事業に対して必要不可欠な重要な技術として実証さ れている。
「SDCプラズマ表面硬化処理装置」の設備は1996年に研究用として小型のプラズマ浸炭処理装置をはじめとして、1999年に大型炉を�螢┘好妊�ー シー堺工場(テクノフロンティア堺)に設備、その後新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)殿のご支援を頂き特許設備の「SDCプラズマ表面硬化 処理装置」を完成させた。
またこの技術は二酸化炭素などの排出ガスが殆どでないクリーンで環境に優しい処理方法として各方面から注目されている。
4.「SDCクリーンボルト」の特性
4−1 特長
・不純物を嫌いクリーン度が求められる環境での潤滑剤及びめっき・コーティングなどを使用せずに焼付き・かじりを防止したステンレス鋼製ボルトである。
・「SDCプラズマ表面硬化処理」によってねじ部の表面硬化を行い、焼付きを防止する。
・めっき・コーティングなど異種材料を表面蒸着するものではないので剥離の心配がない。(コンタミの原因にならない)
・繰り返し使用や高温においても傾斜的な硬化層が得られているために剥離の心配がない。
・母材と同程度の耐食性を維持する。
・真空装置で使用されるガス抜き穴仕様も製造可能で、精密洗浄、クリーンルーム用梱包にも対応可能である。
4−2 締付け試験
本製品の最大の特長である焼付き防止を含む締結特性を「SDCねじ性能試験機」(写真2)を使用した締付け試験により確認した。この試験機は国有特許で ある「弾・塑性域締結ねじ性能試験機」(考案者 東京工業大学 名誉教授 丸山一男工学博士)から量産実用化に弊社が改良し、開発した試験機である。「SDCねじ性能試験機」は、実際の作業環境に近い状 態で、ねじの締結特性を評価する試験機であり、ねじ部トルク・座面トルク・締付けトルクなど各トルクを検出することができ、塑性域締結でのねじの挙動も確 認できる試験機である。

(写真2)
供試体として、六角穴付きボルト:M10×35を「SDCクリーンボルト」と無処理のものを用意し、ナットはステンレス鋼製六角ナットをセットし、ボルト回転による10回の繰返し締付けを行った。結果を図2に示す。
図中のねじ部トルクの線を確認すると、無処理は初回締付けは通常の値だが、締付け回数を重ねるうちに不安定になり、ねじ部に大きな変化が生じていることが 確認できる。8回目で焼付きが発生し、ねじが破壊した。「SDCクリーンボルト」は回数を重ねても安定した締付けが行われ、試験終了後も限界ねじゲージに よるねじ精度テストにも合格した。「SDCクリーンボルト」のねじ部は強固に強化されているのが確認できた。

(第2図)
4−3 機械的性質
「SDCクリーンボルト」の機械的性質をJIS B 1054の「ステンレス鋼製耐食ねじ部品の機械的性質」の引張試験により確認した。供試体として、六角穴付きボルトM8×35を「SDCクリーンボルト」と一般品を用意し、比較検討した。結果を図3に示す。
両者の比較を分かりやすく表すため、表中では無処理のボルトの伸びを1mmオフセットしているが、引張強さは高く、伸びまた破断位置も同じであり、強度の低下は全くないことが確認できた。

(第3図 引張試験データ)
4−4 高温時耐熱焼付き試験
潤滑剤の使用や、めっき・コーティングなどは温度が上がると揮発や変質、さらに膨張係数の差による剥離の恐れがあることから「SDCクリーンボルト」の 高温時での耐焼付き性を試験した。供試体としてM5×16の「SDCクリーンボルト」を使用し、SUS304の板に同サイズのめねじを設け、締付けトルク 10N・mで締付けた。電気炉を使用し、200℃の雰囲気で8時間放置し、その後常温に冷却後、ねじを緩めた。それを30日間(29回)行った。
その結果、焼付き現象は全く生じない事が確認でき、また試験後のねじは限界ねじゲージによるねじの精度試験にも合格した。「SDCクリーンボルト」は高温時の雰囲気に晒されても焼付きを起こさないねじであることが確認できた。
4−5 耐食性試験
「SDCプラズマ表面硬化処理」では、オーステナイト系ステンレス鋼が鋭敏化しない低温度域での処理であるが、元の耐食性を損なっていないか確認するための試験を行った。3.5%NaCl溶液にて浸漬し72時間放置、その後外観を目視した。
結果として、無処理とも発錆が認められなかった。この試験では耐食性に関しても元の母材の耐食性が保たれている事を確認した。
5.おわりに:今後の展望
ステンレス鋼製ボルト・ナットの焼付き防止対策として、潤滑剤やめっき・コーティングなどが使えない環境の配管設備は多数存在する。「SDCクリーンボ ルト」を使用することで、配管設備内部での初期締付け、メンテナンスのねじの取り外しや締付け、高温環境下に晒されたねじの取り外し時などに焼付きが発生 しないことは、安全管理・コスト管理の面から見ても重要な問題が解決される。
配管設備の中でも特にねじ締結を確実に締付けることが設備全体の維持管理・安全に直結することであり、「SDCクリーンボルト」をご使用頂くことにより品質管理の徹底を図って頂ければ幸いである。
今後も使用実績を積み重ねることによって、より一層安心してご使用頂ける製品とすることが当社の使命である。
■筆者紹介
村上 恒成(むらかみ つねなり)
株式会社田中 東京営業所